山川みを さん

東京都出身。大学卒業後、都内の動物園および水族園にて環境教育プログラムを運営するボランティアグループで活動する。

田舎暮らしに憧れて、2013年に念願の福井県若狭町へ移住。農業法人での都市部の若者の就農や定住のサポート、里山体験事業の企画運営を経て、2021年5月、株式会社デキタに入社。前職の農業に関する知識や生産者とのつながりを生かし、 八百熊川の食品加工所およびEC事業において、仕入れや商品開発などを担当している。

「質素という贅沢」を体感できる1棟貸古民家宿「八百熊川」

-八百熊川でのおすすめの過ごし方を教えてください。

熊川の自然に囲まれながら、宿場に暮らすようにお過ごしいただけます。各棟にリビング、キッチン、ダイニング、階上はベッドルームといった一軒家のようなつくりです。最大3〜5名で利用いただけます。

家電、調理器具、食器類を備え付けているため、地元の食材を買ってきて調理もできますよ。

-住み続けたいと思える素敵なお宿ですね。

ありがたいことに、八百熊川に泊まることを目的に熊川宿にお越しいただく方が多いです。かきもちを網で焼いたり、薬草で温泉気分を味わったり、熊川の暮らしを体験できます。

あるものの良さを生かした空間で過ごすことで暮らしの中に潜む価値を再発見するきっかけになるかもしれません。

土地や人の魅力をまるごと届ける食品産業

-次の事業として「食品加工」をスタートするときは、どのようなお気持ちでしたか。

私たちは創業当初から食品加工業にチャレンジしたいという思いを持ってきました。若狭町熊川の思い出となるお土産を届けるために「八百熊川Factory」をつくりました。

-若狭らしいお土産を届けるために、大切にされていることはありますか。

八百熊川を運営する株式会社デキタには、8名の社員がおります。そのうち、若狭町で生まれ育った社員は実は1人もいません。移住してきたからこそ見つけられた「好きなもの」にひと手間を加えてお届けするよう心がけています。

たとえば「鯖のへしこ」という商品では、スライスしたものをパッケージしているため、開封したら焼いて食べるだけ。へしこ1尾をとっても、どうやって食べればいいのか戸惑ってしまう方もいらっしゃると思います。はじめての方でも手に取りやすくすることも、こだわりです。

また、若狭町が北陸最大の梅の産地であることをご存じでしょうか。若狭町の梅の魅力を伝えるために「大粒梅干」という商品では、2L以上(3.7cm以上4.1cm未満)の大きな粒をセレクトしています。

大粒梅干
パッケージはありそうでなかったもの

-心くすぐるアイデアは、どのようにして生まれているのでしょうか。

若狭町に移住してから知り合った地元の方々とのつながり、一緒にひとつのことに取り組むことでアイデアがうまれています。

たとえば、熊川宿の特産品である熊川葛の生産加工を行っている熊川葛振興会の作業の一部をお手伝いしています。その熊川葛振興会のお父さんたちがほそぼそとつくる葛の葉や花を使ったお茶がおいしくて。それが「葛の葉茶」開発のきっかけです。

葛の葉茶
なめらかな口当たりでやさしい甘さ

お米、牛しぐれ煮、へしこ、大粒梅干しをセットにした「八百熊川セレクト里のもんお届け便」は、お米農家でも、梅干し農家でも、商品化は難しいと思います。つなぎ役を担う私たちだからこそできる企画かもしれませんね。

手に取ってくださった方が「旅先でいいものを見つけたよ」と、身近な方にも教えていただけると嬉しいですね。

とば屋の味つけポン酢
壺酢でつくったポン酢。塩ベース、醤油ベースの2種類を楽しめる

福井県若狭町の伝統野菜「山内かぶら」を使った「和食に合う粒マスタード」

-「和食に合う粒マスタード」は「八百熊川Factory」の第1弾商品として発売されましたよね。この商品を第1弾として取り組まれたきっかけを教えてください。

若狭町では、伝統野菜の「山内かぶら」を70代から90代の生産者がつくり続け、守る活動をしています(山内かぶらちゃんの会)。

収穫しきれなかったかぶをそのままにしておくと、花が咲き、やがて種がとれるようになります。生産者さんたちが、その種でマスタードができないか試作されていたんです。食べてみると、とてもおいしくて。その味に惚れ込んだ私たちがレシピを受け継ぎ、商品化に携わることになりました。

-かぶの種でマスタード!どんな風味なのでしょうか。

辛みがおだやかで、後味にほんのりと「かぶの苦味と香り」を感じられます。一般的なマスタードと比べると「やさしい辛さ」という表現が、ぴったりですね。

「和食に合う」というネーミング通り、お醤油の甘辛さ、和風出汁との相性が良いです。八百熊川では、鹿肉のすき焼きと一緒にご提供しています。肉の照り焼き、焼き魚、煮魚、ホイル焼き、焼いた油揚げ、おひたしなどのお野菜と合わせていただくのも、おすすめです。

また、ハムのサンドイッチ、サラダチキンにかけてもおいしいです。「和食に合う粒マスタード」は、梅酢を使っているため白いご飯とも合いますよ。

-他にもこだわりポイントを教えてください。

醤油や味噌などと比べると、ご自宅で使い切れる「ちょうどよい量」にこだわりました。

また、お土産であることを意識して、容器やデザインも検討しました。八百熊川らしい、今っぽさ、田舎っぽさの絶妙なバランスに仕上がったと思います。

-開発中に苦労されたことはありますか。

 山内かぶらちゃんの会からいただいたレシピはあるものの、私たちが自信をもって提供するために、かぶの種と酢のバランスなど配合面に試行錯誤しました。酢の種類を変えたり、量を変えたり。最終的には「大粒梅干」をつくってくださっている農家さんの梅酢を使わせていただくことになりました。

他にも想定外のできごとが起こりました。実は種の選別作業はすべて手作業で行っています。種の大きさは数ミリと小さく、気が遠くなるような仕事です。

初年度は、草や土が混ざっていて何度も選別作業を行いました。

山内かぶらちゃんの会と協力して、品質を担保するために異物を混入させない方法を探索。翌年は、種の選別作業の回数を減らすことができました。

課題が見つかっても、地元の方々と二人三脚で解決しています。

種の収穫風景

-「和食に合う粒マスタード」を発売後、お客様からどんなお声をいただきますか。

外出先で若狭町のことを話すと「あのマスタードのところね」と言われることが増えました。最近では、人づてで「マスタードの会社の人に、おいしかったって伝えといて」と声をかけられることもあります。

また、若狭町の学校の先生からは「東京でも売っているような商品が、地元で生まれていることを知ってほしい」と学校での授業もさせていただきました。

商品を通して、人と人とのつながりを実感でき、とても嬉しいです。

八百熊川のこれから

株式会社デキタのみなさま

-熊川に会社をつくり、宿を運営し、食品加工へ。ひとつずつ事業を広げてきたデキタ。次はどんなことに取り組む予定でしょうか。

まずは、この春に販売開始した若狭産のいちじくをまるごと詰め込んだ、新商品「まるごと若狭いちじく焼肉のタレ」の製造販売を安定させることと、今春本格オープンした複合アウトドア施設「山座熊川(さんざくまかわ)」を軌道に乗せることです。山暮らしを楽しめる、そんなひとときをご案内できたらと思います。

また、山内かぶらちゃんの会とコラボレーションして、若狭町の特産品を使った新たな調味料の商品開発にも着手しているところです。

通年で安定的に製造販売できるもの、協力いただく方々にもメリットになることなど、考えなければならないことは多々あります。熱い思いをもった社員が集まっているため、優先順位をつけながら取り組んでいきます。

-あらためて、熊川宿の魅力を教えてください。

お伝えしたい魅力がたくさんありすぎて…。

「地方の人は代々同じ家に住み続けるもの」といったイメージを抱かれると思います。熊川では、変わらず同じ家に住み続けている人は少ないんです。それぞれ家業の状況に応じて家を住み替えています。さらに、宿場町という特性上、人の出入りが活発なため、外からの訪問者に対して歓迎ムードなんです。

熊川には、変化を柔軟に受け入れる風土があると感じています。

また、熊川宿の町並みと並走するように流れている川があり、全国でも有数の水質の良さを誇ります。水道水に利用されているので、自然の恵みをそのまま味わっている気分。とてもおいしいですよ。

豊かな自然で育った野菜やお米もおいしくて。八百熊川の商品としてもお届けしていますが、熊川にいらして味わってほしいですね。

温かく迎え入れてくれる熊川の人たち、豊かな自然に囲まれながら、贅沢な時間を味わっていただけると思います。

八百熊川ホームページ

https://yao-kumagawa.com