長野市有数の観光名所・善光寺。参拝客が行き交う表参道沿いに位置する「HAKKO MONZEN」は、味噌を中心とした信州の発酵食品にフォーカスしたメニューを展開する創作居酒屋です。
「発酵食品を使った料理」と聞くと和食のイメージがありますが、「HAKKO MONZEN」では、信州米豚の酒粕漬けグリル、発酵カレー、ふき味噌のチョコレートブラウニー、生姜味噌のシーザーサラダ、麹バターのポテトフライなど、信州の旬の食材を取り入れたさまざまなオリジナルメニューを展開しています。
2025年夏期の限定メニューは「生姜味噌豆乳スープの冷製フォー」。レシピ開発を手がけたのは、学生時代に「HAKKO MONZEN」でアルバイトを始め、現在は社員として日々お店に立つ井崎才蔵(いざき・さいぞう)さん。
長野県出身の井崎さんですが、HAKKO MONZENで働き始めるまでは発酵食品には興味がなかったといいます。今では自家製の塩麹を作るなど、発酵食品を取り入れた食生活を楽しんでいる井崎さん。レシピ開発のこだわりポイントや、発酵食品の手軽な取り入れ方を教えてもらいました。
善光寺参道に佇む、創作居酒屋「HAKKO MONZEN」

JR長野駅から歩いて20分ほど、ローカル線の長野電鉄権堂駅からは歩いて5分ほど。善光寺に向かう表参道沿いにお店を構える「HAKKO MONZEN」。ランチタイムとディナータイムの二部制で営業しています。
大正時代は足袋屋だったという古民家をリノベーションした建物は、古き良き趣を残しながらも、おしゃれでカジュアルな雰囲気。家族や友人との食事や、恋人とのデートに。また、一人でゆっくり食事を楽しむなど、どんなシーンでも利用しやすいお店です。

メニューに使用している食材は、信州をはじめとした各地の発酵食品と、県内の農家さんが育てた地元の野菜が中心です。
全国一の生産量を誇る「信州味噌」や、伝統的な漬物である「野沢菜漬け」、古くから地域に伝わる「醤油豆」など、発酵食文化が根付いている長野県。
まずは「食べる」ことから地域の食材に興味を持ってもらい、食卓に取り入れるヒントになれば、という思いから、さまざまなオリジナル料理を提供しています。
発酵食品×エスニック料理?夏の限定メニューを食べてみた

ランチタイムは、「信州米豚の酒粕漬けグリル」「発酵カレー」「塩麹漬け信州福味鶏の唐揚げ」などのメイン料理が選べる「発酵御膳」のほかに、期間限定のメニューが楽しめます。
訪れたこの日の期間限定メニューは、「生姜味噌豆乳スープの冷製フォー」。「発酵御膳」も気になりますが、せっかくなので限定メニューを注文してみました。

見た目だけでも涼しい気持ちになる冷製フォー。よく冷えたスープに、ピリ辛な肉味噌、シャキシャキの野菜、つるっとした米麺がよく絡み、お箸が進みます。豆乳とお味噌のまろやかなスープに、生姜のピリッとした辛さがマッチ。
お味噌というと和食のイメージがありましたが、こんな食べ方があったとは! あっという間に完食し、スープまで飲みきりました。暑さで食欲がなくなりがちな夏でも、これはぺろっと食べられました。お家でも真似したくなります。

セットのドリンクには、「豆乳糀甘酒レモン」を注文。自家製のレモンシロップに、糀の甘酒、豆乳を合わせたHAKKO MONZENのオリジナルドリンクです。
糀甘酒のやさしい甘さに、豆乳のまろやかさ、レモンのきゅんとした酸味がマッチして、ごくごく飲んでしまいます。豆乳も甘酒もそれぞれよく飲みますが、混ぜるとこんなにおいしいんだ!という驚きがありました。
「おいしい!」だけではなく、驚きがあるのが発酵食品の面白さ
おいしいだけでなく、発見や驚きがあるHAKKO MONZENのメニュー。一体どんな思いで作られているのでしょうか。
「生姜味噌豆乳スープの冷製フォー」のレシピ開発を担当したという井崎才蔵さんにお話を聞かせてもらいました。

――まず、井崎さんがHAKKO MONZENで働き始めた経緯を教えて下さい。
大学2年生の頃に、先輩の紹介でアルバイトを始めました。それまでの自分は、どこにでもいるおちゃらけた学生だったんです。でも、HAKKO MONZENではアルバイトでも社員の方と同じように仕事を教えてもらえて。立ち振る舞いや言葉遣い、目線の送り方ひとつまで丁寧に指導していただき、自分自身が人間として成長できている感覚がありました。
大学4年生になり、みんなと同じように就職活動をして、いくつか内定をいただく中で、ふと「先の見えない将来のために働くよりも、今の自分が表現したいことに向き合いたいな」と考えるようになって。
HAKKOでの仕事は、お料理の作り方や盛り付け、接客など、すべてにおいて自分のしたい表現を突き詰めることができる。「大好きな場所なのに、わざわざここを離れる意味はあるのかな?」と考え直し、卒業後もHAKKO MONZENで働くことを決めました。
アルバイトを含めると約4年間勤務しており、現在はメニューの考案も任せてもらっています。
――今回のランチメニューのレシピ開発にあたり、工夫したポイントを教えて下さい。
レシピの開発に当たって特にこだわったのは、2種類の味噌をブレンドしたことです。

まず1つ目が、山ノ内町の「関谷醸造場」さんと一緒に作っているオリジナル生姜味噌です。こちらは、HAKKO MONZENのドレッシングのベースにも使っていて、生姜が効いたパンチのある味わいでお野菜によく合います。ですが、これだけだと味が少し強くなるので、長野市門前の味噌屋さん「すや亀」の甘口味噌「こがね味噌」と混ぜ合わせ、まろやかな味わいを目指しました。
どちらか1種類のお味噌を使うだけでももちろんおいしいのですが、2種類を混ぜることでよりそれぞれの良さが引き立ち、味が深まるんです。
発酵食品は「楽しい」。まずは気軽に日々の食卓に取り入れてみて

―なるほど、タイプの違うお味噌がブレンドされていたのですね。井崎さんは、HAKKO MONZENで働く前から信州の発酵食品には興味がありましたか?
僕は長野県の伊那市が出身なんですが、近所にお味噌メーカーの「ハナマルキ」さんの大きい工場があって、それを見て育ったので「お味噌と言ったらハナマルキ!信州味噌!」というイメージはあったと思います。
でも、関心があるかと言ったら全くなかったですね。普段の料理で発酵食品を意識して使ったことはありませんでした。
――HAKKO MONZENで働き始めてから、普段の食生活も変わりましたか?
すごく変わりました!キッチン業務をするようになってから「家でもやってみよう」と思うようになって。HAKKOオリジナルの調味料を買ったり、スーパーや旅先でお味噌や塩麹などの発酵食品を買ってみるようになりました。
僕、キッチンにいつもと違う調味料があるとちょっとテンションがあがるんです。普段使っている調味料の代わりに料理に使ってみたり、混ぜてみたりしては「うわっ、入れすぎた!」「これは合わないか~」と少しずつ試行錯誤と発見を繰り返してきましたね。その過程も楽しくて。最近は、ヨーグルトメーカーを使って自家製の塩麹を作ってみました。

――それは大きな変化ですね。お家でも真似できる、発酵食品を取り入れたおすすめのレシピはありますか?
今回のフォーに使った「生姜味噌」は野菜とよく合うので、シンプルにキュウリなどの生野菜につけて食べるだけで十分おいしいですよ。
唐揚げや生姜焼きなど、肉料理の下味をつける時に塩麹や醤油麹を使うのもおすすめです。麹の酵素でお肉がやわらかくなりますし、旨みが増します。
最近は、豚キムチを作るときに塩の代わりに塩麹を使ってみたらおいしかったです。新発見でした。入れすぎ注意ですが、ぜひ試してほしいです。
発酵食品は、いつもの料理にちょっと取り入れるだけで「料理をした気」になれるところが好きです。例えば「今日はもうなにも作りたくない……」というくらい疲れた日でも、残りものの野菜を生姜味噌でサッと炒めるだけでぐっとおいしい料理が出来るし、「今日もやったぞ」と達成感が得られる気がするんです。
――最後に、これからHAKKO MONZENを訪れる方へメッセージをお願いします。

「HAKKO MONZEN」では、すべてのメニューに発酵食品を使ってはいますが、僕個人としては「発酵食品を食べよう!」とお店に来るのではなくて、まずは旅の思い出や、大切な人との食事の時間を過ごす場所としていろんな方にご利用いただきたいです。
そうして「HAKKO MONZEN」でいい時間を過ごした先で、「これこんな料理に使えるんだ」「あれおいしかったな、家でもやってみようかな」と、発酵食品を食卓に取り入れるきっかけになったらいいなと思います。実際に、お客さんから「これはどうやって作っているの?」「このお味噌はどう使うのがおいしい?」と聞いていただけることがあるとうれしくなります。
発酵食品は便利でおいしいので、「ちょっとお土産に買ってみよう」とか、「お土産に買ったお味噌、いつもの味噌に混ぜたらどんな味になるかな」くらいの気軽さで日常に取り入れてみていいと思うんです。いろいろ試してみて、おいしい食べ方を見つけていくのはすごく楽しいですよ。
HAKKO MONZENのinstagram:https://www.instagram.com/hakko.monzen/