140年以上受け継がれる醸造文化。中定商店の「醸造伝承館」

「本物」の醸造文化を体験できる場所

愛知県武豊町は、知多半島の中央部にあります。古くから醸造業が盛んな地域で、別名「みそとたまりの町」と呼ばれるほど。中定商店は、温暖な気候と豊かな水源に恵まれたこの地で140年以上続いている老舗の醸造蔵です。

武豊町には、現在も味噌や醤油を醸造する蔵が点在していますが、中定商店はその中でも有数の蔵の保有数を誇っています。数ある蔵の内のひとつを改装して建てられたのが、創業当時から続く醸造文化を伝えていくための施設「醸造伝承館」。一歩足を踏み入れると、ノスタルジックな空間が広がっています。

ここが違う!手作り味噌のこだわり

醸造伝承館の壁には、かつて味噌やたまり醤油を製造する際に使用していた木桶や道具が展示されています。機械を用いて効率化した部分こそあれ、現在も仕込みの過程はほぼ変わっていないというのですから驚きです。

醸造の要となるのが、大きな杉を用いて造られた木桶。醸造に必要な菌が木の隙間で自然発生することで、市販品には出せない特有のうまみが生まれています。木桶を使った味噌は味噌全体の出荷数のわずか5%にも満たない、手間がかかるぶん流通数の限られた製造方法です。

醸造伝承館の入口手前にある六尺桶は、豆味噌なら約5トン、生引溜り醤油なら2000リットルを製造可能。この桶ひとつ分の味噌汁を一人で飲むなら、実に205年かかってしまうのだとか。

現代まで脈々と受け継がれる技術の結晶

施設の2階も、当時の趣をあるがままに残しています。中でもひと際目立つのが、醤油を搾りだすための設備。

こちらの滑車は、なんと今でも実際に縄を引くことができます。施設内に空調設備はなく、見た目以上に重い滑車の縄は、軽く引いただけでも汗が止まらず、醸造現場の過酷さを垣間見ることができました。

まさに醸造のワンダーランド!直売店「本蔵」

醸造伝承館の見学後は、蔵を改装して作られた直売店「本蔵」でお買い物。味噌やたまり醤油はもちろん、それらを活用した様々な商品が販売されています。

趣ある店内には醸造食品がずらりと並ぶ

店内は蔵をまるごと使用していて、開放感とレトロ感が満載。広い販売スペースにはたくさんの商品が並んでおり、中でも「宝山味噌」は、北海道産大豆と蔵の奥にある井戸水を使った同店の人気商品です。

家庭の味噌汁ではだし汁を入れることも多いですが、大豆の粒感が少し残った味噌は豆の旨みがふんだんに残っており、これだけで味が決まります。

取材中も常連さんと思われる方がご購入していて、地元に愛されているのだと実感しました。

試食で本物の味を一足早く体験できる

中定商店では、醸造伝承館の見学を行った方向けに、味噌やたまり醤油の試食を提供しています。店舗で販売されている4種類のたまり醤油の食べ比べにより、商品ごとの味の違いを購入前に確かめることができます。

商品名の「十水」「五分」は、大豆と比較した水の量を示しています。「十水」なら大豆:水が10:10、「五分」なら10:5と、数字が少ないほど大豆の味が濃くなるのです。

一般的なスーパーで手に入る濃口醤油は大豆類:水の比率がおよそ10:14相当。市販品と比較して大豆の味が非常に濃厚であることが数字からも分かります。

甘酒にスイーツも!めくるめく醸造の世界

中定商店では、味噌や醤油以外にもそれらの調味料を活用した商品を多く取り扱っています。武豊町に現存する6つの蔵ごとのたまり醤油の味くらべができる「六つ蔵せんべい」や「みそクッキー」、さらには麹を使った甘酒など、味噌や醤油の購入予定がなくても立ち寄りたくなる、醸造食品の聖地といえるスポットです。

楽しみ方は無限大!醸造食品で食卓を豊かに彩る

店員さんオススメ!新たな味噌の楽しみ方

中定商店の直売店「本蔵」の壁には、店内商品を活用したレシピがたくさん紹介されています。牛のしぐれ煮、豚バラの味噌照り焼き、ゆでたまごのたまり漬けといった和の商品から、味噌を活用したキーマカレーやフライドチキンなどの洋風料理まで、活用方法は多種多様。

中には赤ワインに豆味噌、水、はちみつやこしょうを混ぜて煮詰めることで作る「みそグレイビーソース」など、味噌や醤油の魅力を理解しているからこそ生まれたアイデアレシピも。味の決め手になるだけでなく、まさに”調味料”として、味を調える役割も果たしてくれます。醤油や味噌が持つ無限の可能性を感じました。

奥深い醸造文化の世界に飛び込もう

140年という長い歴史を持ち、日本の食文化を支え続けてきた中定商店。手間を惜しまず作られる豆味噌やたまり醤油には、市販品とはひとあじ違う「本物」の力が宿っていました。

醸造文化やその奥深さを学ぶことのできる「醸造伝承館」と、試食をして味の違いを感じたり、レシピを通じて味噌や醤油の可能性を感じさせてくれる直売店「本蔵」。中定商店で味わえる五感を刺激する体験は、きっとあなたの食卓を彩る一生モノの出逢いになりますよ。