みなさん、金沢にはどんなイメージをお持ちでしょうか。
北陸地域づくり協会によりますと、
・日本海の幸や加賀料理などおいしい食事が 楽しめるまち(味覚のまち)
・寺社仏閣や古い町並みが残るしっとりとした 古都(古都)
・庭園や街路樹、河川などがある美しい緑と水 のまち(水と緑のまち)
・和菓子や伝統工芸などの技を観たり買物が 楽しめるまち(買い物)
引用:「北陸の視座」Vol.9(一般社団法人北陸地域づくり協会・2002年5月)
などのイメージを持つ方が多いそうです。
実際私自身も古い街並みや、古き良き時代のものを継承しているイメージがとても強いのですが、今回はそのイメージ通り、金沢の地で麹を作り続けて190年…
市内で唯一の麹屋さんを営まれている「高木糀商店」さんに190年の歴史やこれまでの軌跡、お店の商品についてお話を伺いました。
高木糀商店とは
金沢で江戸時代から約190年続く麹屋さんである「高木糀商店」さん。
同時期に建築された店舗は市の保存建造物に登録されており、近年では市内唯一の麹店として地元の方から観光客まで幅広く来店されています。
写真左から2番⽬の⾼⽊真利⼦さんにお話を伺いました。
長い歴史の中で大切にしていること
-190年という長い歴史の中で、大切にされていることはありますか。
先祖から受け継いできたもの、守ってきたものを形は変えず、変化する時代に合わせた柔軟性を持って、次の時代に受け渡したいということを主人といつも話しています。
作り方もそうですが、規模を大きくすると品質などが保てない部分が出てきてしまうので、無理に大きくしたり、生産量を増やしたりっていうことはしたくないなと思っています。
-商品を購入されるお客様は地元のお客様が多いかと思うのですが、金沢を訪れる観光客の方もいらっしゃるのでしょうか。
代々うちの麹を楽しんでくれている地元の方が半分以上ですね。
時代の流れで、麹業界というものがだんだんと衰退していっていることもあり、8代目の義父は自分の代で閉めようっていう風に思っていたそうなんです。それを主人が継ぐと決めて、そこからは甘酒や塩糀などの販売を開始して商品数を増やしたり、良い麹を作るということを改めて意識したり、麹に対する思いがより強まったような気がしています。
それもあってか、地元の方や観光客の方も含めて、「新しいお客さん」がついてくれるようになりました。
-9代目からは大きく変化されたのですね。
そうですね、1つの転換点ではあったかなと思います。
-代々受け継ぐ中で、大変だった出来事があれば教えてください。
麹菌という酵母が建物の至るところに住みついているんですけど、 17年前に2年かけて大きな改修工事を行った際に、人の出入りや、新しい材が入ることによって変化して、麹の出来や味に影響が出たことがあったんです。目に見えない繊細なものなので、 大変でした。
高木糀商店の糀について
どんなものに加工しても美味しくなる甘みが強めの麹
-製造されている糀の特徴をお伺いできますでしょうか。
麹業界ではそれぞれの商品に適した麹がある中、私たちの麹は味噌でも、甘酒でも、塩糀でも…一般の方が使いやすく、どんなものに加工しても美味しくなるような甘みが強い麹なのが特徴です。
-確かに「三年味噌」を食べた際に、かなり甘みとコクがあって、普通の味噌と違うなと衝撃を受けました。
ありがとうございます。三年味噌は特に長く寝かせることによって、コクと甘みが増して、お塩の角が取れるので、より深い味になっています。
古くから使われてきた道具を再利用するこだわり
-昔ながらの製法で商品を作られていますが、こだわっているポイントはありますか?
古くから使われてきた道具の地域や職人の背景を含めて継承していきたいという思いがあり、道具にはこだわっています。
実際に、お味噌を寝かせる木桶は酒蔵などで使われていたものを再利用したり、 麹を寝かせる麹蓋と呼ばれている道具は作れる職人さんがもういないので、廃業される麹屋さんから安く譲っていただいて、直しながら大切に使っています。
-新しいお取り組みも積極的にされていらっしゃるとサイトで拝見しました。
いろんな農家さんに自分の作ったお米を持ち込んでいただき、うちで麹に加工したりしています。お米によって全く違う出来上がりの麹になるので、いろんな麹を作って商品化してみたり、料理研究家の方とコラボレーションして、料理教室を開催したりもしています。
あとは、「東雲」といううちのオリジナルブレンドの麹菌を種麹屋さんに作ってもらっています。
-普段から利用されていらっしゃるお客様から、どんなお声がありますか?
麹が要なので、 その麹を使って出来上がったお味噌や甘酒がおいしく仕上がるということで、「他のところの麹と全然違う」と嬉しいお声をいただけることが多いですね。
高木糀商店のおすすめ商品
-数々の商品がありますが、それぞれの特徴と、おすすめの食べ方があったら教えてください。
麹にあまり馴染みがなく、どういう風に使いこなしたらいいかわからないとおっしゃる方が多いので、入口としてはお味噌が1番わかりやすいかなと思いますね。
あと「甘酒」は、さっぱりと癖がなくて、甘酒が苦手な方でも飲みやすいと言っていただくことが多いので、甘酒を最初に手に取ってもらうのがいいかなと思います。
個人的には「辛糀」がオススメですね。鍋の味付け、餃子のタレ、冷ややっこ、豆板醤の代わりに中華炒めの味付けに使ったり、野菜を揉み込んでピリ辛のお漬物にするなど…何にでも使えてすごく万能なんです!
-味噌づくりキットも販売されているのですね。
お店で味噌作りの教室を毎年冬に3ヶ月間ぐらいやるんですけど、遠方の方だとなかなか来ていただくのも大変なので、そういった方に向けてお家で手軽に作れるキットを販売しました。ありがたいことに想像以上に反響をいただいています。
地域との関わりで大切にしていることは信頼
-地域との関わりの中で大切にしていることはなんですか?
信頼と信用を第一に考えています。石川県は100年企業で昔ながらの商売を長くされているところが多いんですけど、歴史にあぐらをかくような気持ちでやっていると、地域の方に気持ちが伝わらなかったりするので、そこはあまり無理をせずに、自分たちのできる範囲のことを正直にやっていきたいなっていう思いでいます。
-地域に溶け込んだとても素敵な蔵造りですが、外観を守ることも意識されているポイントなのでしょうか。
改修工事を機に、市の保存建造物に指定してもらいました。 今後も外観は趣を残していきたいなと思っています。
高木糀商店の今後の展望
-高木糀商店さんが今後取り組みたいこと、目指していることはなんでしょうか。
目標をどこに定めるかいつも家族で相談しあっているんですけど、 やっぱり規模を大きくしたり、生産量を増やしていくような拡大路線ではなく、「拡充」で細く長くしっかりとした商品をお客様にお届けするっていうところに重きを置いて、商売を続けていこうっていう気持ちでいます。
あとは、この何年間かいろんな交流が断たれた時間もあって、同じ空間でその場の人たちと直接関わるっていうことが、すごく大切だなっていう風に思ったので、全国のお店やお客様と繋がってマーケットに出店したり、出張販売をしたり、こちらから出向いていくことにも力を入れたいなとは思っています。
【公式】高木糀商店