普段から何気なく料理に使ったりドリンクとして飲んだりと、私たちの生活に深く根付いている調味料・酢。
醤油や塩、砂糖と並んで身近な存在ですが、実は遡ること紀元前5000年頃に生まれた、世界最古の調味料でもあります。そう聞くと、なんだかよく見慣れた酢の、ミステリアスな一面が見えてくるような気がしませんか?
今回は、日本の食文化に欠かせない酢の、知られざる魅力に迫る大特集!豊富な種類や健康へのアプローチ、選び方からおすすめの使い分けまで、様々なトピックに注目して酢の世界を深掘りしていきましょう。
最後まで読めば、きっとあなたも酢の奥深さの虜になるはず。
よりどりみどり!個性豊かで多彩なお酢の種類 酢の種類はかなり豊富で、味わいもさまざま。 まずは私たちの食卓でおなじみのものから、見かけることが少ないマイナーなものまで、酢の種類と特徴をチェックしていきましょう。
穀物酢 穀物酢は、小麦やとうもろこし、酒粕などの穀物を原材料として作られた醸造酢です。 一般的に酢といえば穀物酢のことを指し、「酢」と聞いて多くの人が思い浮かべるのはこの穀物酢でしょう。すっきりとした酸味でクセのない味わいなので、オールマイティに使用することができます。 比較的リーズナブルに購入することができるため、大量に酢が必要な料理などにも遠慮なく使えるのが嬉しいですね。
米酢・純米酢 米酢は精製米を発酵させて作られた酢のこと。米の甘みが感じられるまろやかなコクが特徴です。和食との相性がよく、酢飯などにぴったり。 米酢の中でも米のみを使用して作ったものを純米酢といい、よりふくよかな風味とコクが楽しめます。純米酢以外の米酢はアルコールを加えて作っているため、純米酢と比べるとやや軽やかな印象です。
粕酢(赤酢) 酒粕を原料にして作られる粕酢。赤褐色の深みある色合いから赤酢とも呼ばれます。 日本では古くから米酢が作られていましたが、米が貴重で高価だったため、長らく上流階級の間でのみ流通していました。粕酢が生まれたのはそんな江戸時代、大手メーカー「ミツカン」の創業者である中野又左衛門氏が生産に乗り出したのが始まりと言われています。粕酢を使った寿司は庶民のあいだで瞬く間に人気を博し、日本中で酢が調味料として広く親しまれるきっかけになったそう。 米酢に比べて酸味が少なく旨味が強いので、料理の味わいがぐっと深くなります。
黒酢 黒々とした色味とまろやかな味わいが特徴的な黒酢。原材料は玄米と麹と水です。 黒酢の発祥は諸説ありますが、200年ほど前に中国の商人から鹿児島県の一部地域に製法が伝えられたという話が有力。アマン壺という専用の壺の中に蒸した玄米、麹、仕込み水を入れて屋外で発酵させ、1〜3年という長期熟成の末に完成します。熟成期間が長いほど、色合いや風味が深くなります。 芳醇な香りとコクが楽しめる黒酢は、中華料理や手羽先の煮込みなど、こっくりとした味わいの料理に使うのがおすすめです。
リンゴ酢 リンゴ酢はその名の通り、リンゴを原料に作られた果物酢。アルコール発酵させたリンゴ果汁を酢酸発酵させるか、リンゴをそのまま酢と砂糖に漬けて発酵させる2種類の方法があり、後者は自宅でも簡単に作ることができます。 リンゴの甘い風味が酸味をやわらげてくれるので、酢があまり得意ではない人も口にしやすいのが魅力。料理だけでなく、炭酸や牛乳と割ってドリンクとしても楽しめるフルーティな調味料です。
ワインビネガー ぶどう果汁をアルコール発酵させ、酢酸を加えてさらに発酵させたものがワインビネガーと呼ばれ、果実味の感じられる爽やかな風味が特徴です。 ワインビネガーには、赤ぶどうを原料とする赤ワインビネガーと、白ぶどうを原料とする白ワインビネガーの2種類があります。 赤ワインビネガーはコクや渋みがあり、肉料理と相性バツグン。白ワインビネガーはさっぱりとした酸味で魚介系の料理によく合います。
バルサミコ酢 バルサミコ酢は、煮詰めたぶどう果汁を木樽で長期間熟成させた果実酢のこと。イタリアのモデナ地区を中心に、伝統的な製法で生産されています。 イタリア語でバルサミコとは「芳醇な」「香り高い」などの意味があり、名前の通り上品でフルーティな風味と、甘酸っぱい濃厚な味わいが楽しめます。 実はイタリアのごく限定的な地域にて伝統的な製法で作られたものしか正式なバルサミコ酢と認められておらず、日本のスーパーでよく見かけるもののほとんどは「バルサミコ酢風調味料」と呼ばれるものです。ワインビネガーに甘みや香料を加えてバルサミコ酢の味わいに近づけています。 本場のバルサミコ酢とは似て非なるものではありますが、比較的お手ごろな値段で購入することができ、家庭で使用する分には十分おいしくいただくことができます。
麦芽酢(モルトビネガー) モルトビネガーは麦芽から作られた洋風酢の一種です。日本ではあまり馴染みがないかもしれませんが、世界的に広く親しまれている調味料です。 まろやかな酸味と洋酒を思わせる香り、褐色の色合いが特徴で、さまざまな国の料理に幅広く活用されています。サラダや肉料理はもちろん、揚げ物と合わせてもおいしいですよ。
梅酢 梅酢とは、梅を塩漬けした際に梅から出てくるエキスのこと。 梅酢は歴史が古く、紀元前600年頃の中国の歴史書に登場していたことが確認できています。原料を発酵させて作る醸造酢とはまた別物ですが、日本では古くから親しまれている調味料の一種でもあります。 ちなみに、梅干し作りの過程で生まれるエキスを「白梅酢」、白梅酢に赤紫蘇を加えたものを「赤梅酢」と呼びます。 梅の芳醇な香りと華やかな味わいが楽しめる、自然の恵みから生まれた天然の酢です。
二杯酢・三杯酢・土佐酢 二杯酢とは、酢と醤油を1:1で合わせたもの。三杯酢は酢と醤油とみりん(または砂糖)を1:1:1で合わせたもの。土佐酢は三杯酢にさらに鰹節でとった出汁を加えたものを指します。 いわゆる合わせ調味料というもので、市販品を購入することもできますが、家でも簡単に作れるので割合を覚えておくと便利です。 二杯酢はさっぱりとした味わいで、三杯酢は甘みが加わったぶんまろやかさが感じられます。土佐酢は出汁の風味が素材の旨みを引き立ててくれますよ。
酢ってどんな調味料?地域性や歴史にも注目 ここまで多種多様な酢の種類をチェックしてきましたが、そもそも酢とはどんな調味料なのでしょうか?
酢とは、糖質を含む食材を原料とし、それをアルコール発酵させたのちに酢酸発酵させたもののこと。 「酒があるところ、必ず酢あり」と言われるほど、アルコールと酢は密接な関係にあります。 たとえば、日本では日本酒から作られる米酢が。フランスではワインが愛飲されているため、ワインビネガー作りが盛んです。ビールが市民権を得ているイギリスやドイツでは、モルトビネガーが多く作られています。 このように、世界中で作られている酢はその国々の酒文化に大きく影響を受けており、種類や特徴に地域性が見出せるのが興味深いところでもあります。
世界最古の調味料・酢はどうやって生まれたのか 世界で最古の酢は、紀元前5000年頃のバビロニアで作られたと言われています。当時の人々は干しぶどうやナツメヤシから酒を作っていたという記録が残っており、同時期に酢が誕生した説が有力です。 穀物や果物を蓄える過程でアルコールが生まれ、そこに自然発生した酢酸菌が作用して、偶然生まれた酢。酢は長い間、人類史とともにあった調味料なのです。 ちなみに、日本で酢が作られるようになったのは4〜5世紀頃で、中国から酒を造る技術とともに米酢の製造法が伝来しました。かの有名な万葉集にも、酢が登場する和歌が存在するそうですよ。
チェックポイントはどこ?酢を選ぶときの着目点とは 酢は主に・醸造酢 ・合成酢 ・加工酢 の3種類に分けられます。 家庭用に流通しているのはほとんどがこの醸造酢で、有機酸やアミノ酸がたっぷり含まれています。
酢はもともと、長い発酵期間を経てできあがる、時間と手間のかかる調味料です。しかし近年は、量産がしやすい短期醸造で作られた酢も多く流通しています。 伝統的な長期発酵で作られた酢は栄養がぎゅっと詰まった濃厚さが魅力ですが、短期発酵で作られた酢はすっきりとした味わいで、酸味が苦手な方でも食べやすいという利点も。
価格、味付け、醸造方法などによって、酢の風味や効能は変化していきます。 どんな用途や目的で使うのか、酸味が得意なのか苦手なのかなど、自身のライフスタイルにあった製品を選ぶのが重要ですよ。
密やかに私たちの健康を支える酢 日々の食卓でおなじみの「酢」。実は、昔から健康維持に役立つ調味料としても親しまれてきました。 料理にアクセントを加えるだけでなく、その成分に注目した研究も世界中で進められています。 この章では、酢に含まれる酢酸などの成分に関して報告されている主な働きや、摂取の際に気をつけたい点などに注目してみましょう
血圧に関する研究 酢の主成分である酢酸には、血管の拡張を助ける可能性があるとして、いくつかの研究で血圧との関連が調べられています。 たとえば、2001年に発表されたある動物実験(※1)では、酢酸を摂取したラットの血圧が低下したという結果が報告されました。 また、酢を使った調理が減塩に繋がることから、間接的に健康的な食生活の一助となる可能性も指摘されています。
※1:Kondo, T. et al. (2001). Effect of acetic acid feeding on the circadian changes in blood pressure in spontaneously hypertensive rats. Biosci Biotechnol Biochem.
血糖値への影響に関する研究 2005年に発表された研究(※2)では、食事と一緒に酢を摂ることで、食後血糖値の上昇が抑えられたという結果が報告されています。 あくまで限られた条件下での研究であり、すべての人に当てはまるものではありませんが、日常に取り入れやすい習慣で取り組みやすいのが嬉しいですね。 酢を摂るタイミングとしては「食前、または食事とともに」が効果的である可能性が高いとされています。
※2:Johnston, C.S. et al. (2005). Vinegar improves insulin sensitivity to a high-carbohydrate meal in subjects with insulin resistance or type 2 diabetes. Diabetes Care.
運動後の疲労に関する報告 一部の研究では、酢に含まれる酢酸などの有機酸が筋肉の疲労物質である乳酸の代謝を促す可能性があるとされ、疲労回復との関連が調べられています(※3)。 特に運動後や体をよく動かした日に、酢を含む食事を摂ることでリフレッシュ感を得られると感じる人も多いようです。
※3:Naito, Y. et al. (2014). Effect of acetic acid supplementation on muscle fatigue recovery after exercise. Japanese Journal of Clinical Nutrition.
腸内環境との関係 酢酸には、胃酸の分泌を促す可能性があるとする報告もあり、それが消化機能の活性化や腸の運動サポートに関わるとされています(※4)。 また、発酵食品としての酢を他の食材と組み合わせることで、腸内環境を整える手助けをしてくれるのでは、という観点からの研究も進められています。
※4:Ebihara, K. et al. (1999). Effects of vinegar intake on gastric acid secretion. Nutrition Science Journal.
体型維持に関する報告 いくつかの臨床研究では、酢の継続摂取が内臓脂肪の減少や体重減少に関連する可能性が示唆されています(※5)。 たとえば、2009年の日本の研究では、1日15〜30mlの酢を12週間摂取した被験者に体脂肪の減少傾向が見られたという報告があります。
※5:Kondo, T. et al. (2009). Vinegar intake reduces body weight, body fat mass, and serum triglyceride levels in obese Japanese subjects. Biosci Biotechnol Biochem.
※上記の情報は、あくまで過去の研究・論文に基づいた一般的な知見であり、特定の健康効果を保証するものではありません。 ※酢は食品であり、疾患の治療・予防を目的としたものではありません。
歯が薄くなるって本当?酢の過剰摂取の影響 こんなにいろいろな研究や報告があるなら、とにかく酢をたくさん摂取して健康になろう!…と言いたいところですが、いったんストップ。やはり、何事にも限度というものがあります。
まず、酢は酸性の性質を持つため、濃度の高いものを過剰摂取すると喉や胃、食道などの消化器系を痛める可能性があります。 また、酢のように有機酸を含む食品は、大量に口にすると歯を溶解させる危険性も。摂取量には注意が必要です。
唾液が酸を中和してくれるのであまり神経質になる必要はありませんが、とはいえ酢と歯が長く触れ合った状態が続くのはおすすめしません。酢などの酸を多く含む食品は、口に入れたらなるべくすぐに飲み込みましょう。 酢は私たちの健康を支えてくれる身近な調味料だからこそ、適切な濃度、適量を守って、上手に生活に取り入れたいですね。
料理の味わいを引き立たせる、酢のおすすめ使い分けリスト 酢の種類や味わいがたくさんあることはわかったけど、酢の活用法っていまいち思いつかない…そんな方のために、ここでは著者がおすすめする酢のいろいろな使い分けを厳選してお届けします!
日本のこころ、漬物には梅酢がぴったり 家で漬物を作る際、なにを使っていますか? シンプルに塩と昆布?それとも市販の漬物の素? ここはぜひ、梅酢を使ってみることをおすすめします。漬物として定番のきゅうりや大根、かぶ、少し変わり種で長芋など、漬ける野菜はなんでもOK。みょうがや生姜もおいしいですよ。 梅の風味がキリリと効いた、いつもの漬物と一味違う味わいが楽しめます。
フルーティな風味が野菜の味わいを引き出すリンゴ酢 果物の甘みをそのまま楽しめるような華やかな風味を持つリンゴ酢は、野菜との相性が◎。ドレッシングなどに使えば味わいにぐっと深みが増します。 そのままサラダにかけて食べてもよし、キャロットラペなどにもぴったりです。 野菜の瑞々しいうまみをさらに引き立たせる、フレッシュな味わいを楽しんでください。
白ワインビネガーの爽やかな酸味でワンランク上のマヨネーズ作り 魚介類やドレッシングとして使うことが多い白ワインビネガーは、自家製マヨネーズの活用にもおすすめ。果実みのある風味が、普段食べているマヨネーズとは一味違う、ワンランク上の大人の味わいを演出してくれますよ。 しっかりとした酸味とワインを思わせる風味が効いて、そのままディップとして使っても十分楽しめます。さらにアレンジを加えてタルタルソースやポテトサラダなどを作ってもGOOD。
これぞ本場の味!モルトビネガーで楽しむフィッシュアンドチップス 日本ではタルタルソースと合わせることが多いフィッシュアンドチップスですが、本場イギリスではモルトビネガーをかけて食べるのが主流。熱々の衣に塩を振って、モルトビネガーをひたひたになるほどたっぷりつけるのがイギリス式です。 モルトビネガーの独特の香りと爽やかな酸味がアクセントになり、揚げ物でもさっぱりおいしくいただけるので、ついつい食べ過ぎてしまうかも。 キンキンに冷えたビールと合わせて、ぜひ本場の味をご賞味あれ。
おわりに 今回は、さまざまな観点から酢の魅力を広くご紹介しました。 「いつもの酢とは違うものを選んでみようかな」「珍しい酢を見つけたから、今日はあの料理を作ってみよう」…そんなふうに、普段とは少し違った目線で酢を楽しめるきっかけになれば幸いです。