醤油をつくりはじめて400年。五大名産地・大野醤油とは

-大野醤油が発展したきっかけを教えてください。

北陸は、北海道と船の航路が繋がっていた影響で、昆布だしの文化が根付いています。そのため、昆布だしに合う醤油が発展してきました。

-だし文化と醤油は密接に関わっているのですね。昆布だし文化とともに発展してきた大野醤油は、どんな特徴があるのでしょうか。

地域によって、醤油の風味は変わります。昆布だしは、穏やかな風味の醤油と相性が良いです。一方で、鰹だしは風味が強いのが特徴で、だしに負けないキリッとした風味の醤油がおいしく感じます。

大野醤油は「うまくち醤油」と表現しており、九州の甘い風味と、関東のキリッと塩角が立つ風味の中間をイメージいただければと思います。醤油がつくられた当時、甘さは贅沢とされていた時代。醤油に少し甘みを加えることで、贅沢さを味わえる調味料に仕立てたと考えられています。

「地産地消」を大切にする大野醤油

蔵元が共同でつくる「生揚醤油」

大野醤油はどのようにつくられているのでしょうか。

以前は、原料調達から製造、販売までを蔵元ごとに行っていました。しかし、今から50年前、昭和40年代から変化します。地元の醤油屋が共同で組合工場を建て、「生揚醤油(きあげじょうゆ)」を用いて、前半工程の一貫製造をはじめました。

主な原料は、大豆、小麦、食塩です。

大豆と炒って引き割った小麦を混ぜ合わせて、麹菌を加え、麹をつくります。麹と食塩水を混ぜて発酵、熟成させるともろみができます。もろみを絞ってできた液汁をろ過したものが、生揚醤油(きあげじょうゆ)です。

「製麹」の工程

-蔵元ごとの製造から、組合で一貫製造をはじめたきっかけを教えてください。

昭和40年代から、スーパーマーケットが台頭し、関東や関西で製造された大手醤油メーカーの商品が北陸でも買えるようになりました。北陸の蔵元が小規模で製造、販売しても、価格で対抗できません。

醤油は、熟成に少なくとも半年から1年かかります。原材料を購入してから、販売、収益を得るまでに時間を要する商品です。

醤油は嗜好品ではないため、お客様が手に取りやすい価格でお届けしなければなりません。地元の蔵元同士が協力した方が、価格面、品質面からもお客様に良いものをお届けできるという判断に至りました。

-販売環境の影響を受け、製造方法が変わってきたんですね。

今となっては、大野以外の地域でも、原材料を調達して製造、販売までを一括で行っているところが増えています。組合工場でつくった生揚醤油を塩水で調整、甘みを加え「うまくち醤油」をつくる工程は、蔵元ごとに行っています。うまくち醤油づくりにおいて、各蔵元が独自性を出せるような手法を選んでいます。

「圧搾」の工程

ものづくりにも、地域づくりにも力を入れている

-他にも、大野醤油をつくるうえで大切にされていることを教えてください。

地産地消を大切にしています。可能な限り、北陸や北陸に近い地域で生産されたものを原材料として商品をつくり、販売する。地元の農家さんに少しでも貢献できるよう考えています。

醤油だけではなく、まちづくりにも取り組んでいます。大野は金沢市の中心部から少し離れており、海辺の行き止まりの町と言われ続けてきました。だからこそ、蔵造りの建物など趣きがあります。醤油文化に触れつつ、町並みも楽しんでいただけると思います。金沢までお越しの際は、少し足をのばしてみてください。

また、醤油づくりに関わってくださる移住者も大歓迎。訪れる人たちとの関わりによって、地元の人たちにも、より大野に誇りと愛着を抱いてもらえたらと思っています。

創業198年。金沢・大野醤油の代表「直源醤油」

「直源醤油」は、家庭料理の名脇役でありたい

-生揚醤油をつくったあとは、いよいよ直源醤油の出番です。直源醤油として、ものづくりに込める想いを教えてください。

変わらない味をお届けすることですね。調味料の風味が変わると、当然、料理に影響します。当たり前のように、同じものを届け続けることが重要だと考えています。

醤油づくりにおいて、おいしさはもちろんのこと、香りや色味という観点で食材をいかに引き立てられるかがポイントです。「醤油の風味が隠れすぎても、主張しすぎても良くない」と、代々受け継がれている教えです。わたしたちがつくる醤油は、主役を引き立てる名脇役のような存在でありたいと思っています。

経営理念には「味の黒子役に徹しよう」と直源醤油さんらしい言葉も。
工場内に経営理念を掲示し、社員がいつでも見られるような工夫もされています。

-変わらない味を届け続けるために、力を入れていることはありますか。

原材料や気候など、醤油づくりに影響するポイントはさまざまです。

最近は、原材料が高騰しています。品質を最優先に考えると、高騰したからと言って原材料を変えるのは難しい。変わらない味を同じ価格でお届けするために、醤油ボトルの容量を1Lから800mlに変更しました。

その際、わたしたちの想いを伝えるために、新聞広告を出しました。

実際に掲載された広告

-お客様からの反応はありましたか。

「伝えてくれて安心した」「容器が軽くなってよかった」「1Lだと使い切るのに時間がかかるから、高くなるよりいいわ」といった肯定的なお声をたくさんいただきました。

たしかに、1Lの醤油ボトルを持ち歩くのは大変ですよね。また、開封後のおいしさや品質面からも、少しでも早く使いきっていただく方が安心です。

容量を変更するためには、製造ラインに投資しなければならず、大きな決断でした。お客様の喜んでいる姿を見られて、今となっては決断してよかったと思っています。

-直江さんたちの想いが届いたんですね。

お客様の中には、何十年も当社の醤油を使い続けてくださる方もいらっしゃいます。だからこそ、気を引き締めてものづくりにあたろうとあらためて決意しました。

お客様の声は、商品開発や販売のヒントになります。たとえば「あのお店の商品がおいしかったよ」「あそこの商品を食べてみるといいよ」といったお声です。これからもお客様や販売店のみなさまとコミュニケーションをとりながら、商品を届け続けていきたいです。

これからも北陸の食文化を支えていく

-直源醤油の今後について、お考えを教えてください。

醤油の消費は、米や魚の消費量、つまり和食をいただく頻度と連動するといわれています。たとえば、朝食はパン、昼食はパスタ、夕食はカレーといったメニューになると、醤油の出番がなくなります。

和食は、無形文化遺産に登録されていますが、本当に遺産になっては困ります。毎日でなくとも、和食をつくっていただけるような活動にも取り組んでいきたいです。

また、醤油の他にも北陸産の食材を使ったドレッシングなどをラインナップすることで、北陸の食文化を支えられると信じています。

そのうえで、今後は海外展開にも力を入れたいです。海外に行くと、寿司やすき焼きなど、醤油を活用する和食の広がりを感じます。和食とともに醤油も広げていきたいですね。

-海外展開に向けて、大野醤油として取り組まれていることがあるそうですね。

そうなんです。小麦を使わないグルテンフリーの醤油を製造できる工場を建設し、商品化を目指しています。欧米はグルテンフリー食品が非常に多いですよね。小麦アレルギーの方にも醤油を楽しんでいただきたいと思っています。

小麦を使わないと、たまり醤油のような仕様になりますが、ふだん使いできる粘性の低いサラッとした醤油づくりに奮闘中です。

ご家庭の料理にあう醤油を選んでほしい

-オンラインショップには、たくさんの商品がラインナップされていますね。はじめての方にはどんな商品がおすすめですか?

はじめての方には「もろみの雫」を手にとっていただきたいです。国産の大豆と小麦、霊峰白山の伏流水を用いた商品です。醤油本来の味わいと香りを楽しんでいただけます。刺身、寿司はもちろんのこと、薬味と一緒にお肉といただくのもおすすめです。

丸大豆醤油「もろみの雫」 200ml

-お肉にも!醤油の使い方が広がりますね。もろみの雫を手に取ったあと、他の味も楽しみたい方へのおすすめはありますか。

もろみの雫 醤油糀」をおすすめしたいです。この商品は「もろみの雫」に糀を配合し、発酵させています。醤油の甘みだけでなく、糀の甘さも楽しんでいただけます。

少し粘度があるため、塩麹のように、食材の下ごしらえとしてもお使いいただけます。食材につけたり、かけたり、汎用的にお使いいただける商品です。

もろみの雫 醤油糀 120ml

ぜひ、ご家庭の料理と相性の良い醤油を探す旅をしていただけたら嬉しいです。オンラインショップでは、醤油以外にも、ドレッシングなどのオリジナル商品を取り揃えています。どうぞ、北陸発の食文化を楽しんでください。

工場見学も受付中!

直源醤油では、醤油をより身近に感じていただく取り組みとして、喫茶スペースや工場見学も受け付けています。

大野醤油の歴史や醤油・つゆ・ドレッシング類の製造ラインをご覧いただけます。また、町並みや醤油を味わっていただくこともできます。

醤油づくりを直接見る機会は意外と限られています。体験していただくことで、醤油について新たな発見があるかもしれません。喫茶スペースやショップでは、醤油を使ったオリジナルメニューも楽しんでいただけますよ。

工場見学のご案内

https://www.naogen.co.jp/kengaku/

※大野醤油(生揚醤油)の製造工程については、動画で視聴いただけます。

直源醤油 公式通販サイト
醤油処 直江屋源兵衛

https://www.naoeya-genbei.jp/