豆板醤とコチュジャンの違いとは

見た目や名前が似ていることから、つい混同しがちな豆板醤とコチュジャンですが、豆板醤は中国に、コチュジャンは朝鮮半島に起源を持ちます。

原材料も異なり、豆板醤はそら豆に麹と塩水、唐辛子などを加えて作られる一方、コチュジャンは唐辛子ともち米などが主原料で、麹や塩などをあわせて発酵させるため、辛みだけではなくもち米由来の甘さが特徴です。以下、違いを詳しくみていきましょう。

豆板醤とは

発祥や歴史、材料と味わい

豆板醤は、中国の西南部に位置する四川省が発祥とされ、現在も隣接する重慶市などとともに一大生産地となっています。特に四川省の省都、成都の郫都(ひと)区で作られる「郫県豆瓣(ピーシエントウバン)」は名品。3~5年もの歳月をかけて熟成され、「四川料理の魂」と呼ばれるほど。辛みにうま味も加わった四川料理の特徴である「麻辣(マーラー)」な味わいを生み出すのに欠かせない存在です。

材料は地域やそれぞれの家庭によっても若干の違いがありますが、伝統的な豆板醤の主原料はそら豆や塩、唐辛子。そこに麹を加え、発酵させて作られます。日本のメーカーの商品にはそら豆の代わりに大豆が使われたものもあります。

味わいの魅力は何と言ってもその刺激的な辛さ。少し加えるだけでどんな料理もピリ辛に変わります。加熱することでうま味が増すので、麻婆豆腐や豚肉などの炒め料理にぴったりの調味料です。

豆板醤おすすめ活用法

活用のポイントは「加熱」。豆板醤は火を通すことで香りが立つため、はじめになるべく強めの火で炒めてから具材を加えることで、より風味を感じることができます。

その他にもおすすめしたいのは、豆板醤を別の調味料や素材と混ぜ「合わせ調味料」を作ること。

たとえば、豆板醤にごま油を加えて、塩漬けした野菜に和えるだけで立派な箸休めになりますし、マヨネーズと組み合わせると豆板醤の辛みが中和されてマイルドな味わいに変化します。マッシュしたじゃがいもやカボチャに和えれば、おつまみにピッタリな一品の完成です。

豆板醤、家で作れる?

そら豆が主原料の豆板醤。自宅でも簡単に作ることができます。ここではシンプルな材料で作るレシピをご紹介します。唐辛子の量を調整するなどして、ぜひ好みの味を見つけてみてください。

■材料

そら豆:さやつきで10~15個ほど

(A)米麹:10g

(A)粗塩:15g

(A)粉状の唐辛子:10~15g

■作り方

1.そら豆はさやから出し、切り込みを入れ蒸し器で5分ほど蒸す。(蒸し汁は取っておく)

  ※蒸すかわりに8分ほど塩ゆですることも可能。

2.薄皮をむき、熱いうちに手早く潰す。

3.十分に冷えた2に(A)を加え、すり潰すようによく混ぜ合わせる。蒸し汁を小さじ1〜3ほど加えて、なめらかになるよう調整する。

  ※蒸し汁がなければ水で代用可能です。

4.清潔な瓶に入れ、上から押して空気が入らないようにする。表面にラップを敷き、蓋をしてひと月から半年ほど直射日光の当たらない常温に置き熟成させる。

  ※熟成した後は冷蔵庫に入れて保管してください。

コチュジャンとは

発祥や歴史、材料と味わい

日本のスーパーでもよく見かける、朝鮮半島生まれの発酵調味料コチュジャン。米やもち米、麹に唐辛子を加え、熟成させて作られます。韓国語で唐辛子を意味する「コチュ」にその名の由来があり、豆板醤に比べるとマイルドな辛さが特徴です。唐辛子が日本から朝鮮半島へ伝来した後、18世紀以降に作られ始めました。朝鮮王朝の頃から宮廷への献上品とされ、特に淳昌(スンチャン)のコチュジャンは韓国一の絶品なのだそう。

「韓国の調味料だから、韓国料理にしか使えないのかな」と思われがちですが、バランスの良い味わいのおかげでさまざまな調味料や素材と相性がよく、ジャンルを問わず幅広い料理に使える万能調味料と言えます。

コチュジャンおすすめ活用法

豆板醤に比べると糖分が多く、炒めると焦げやすい点に注意が必要です。そのため加熱調理の際は、他の具材に火が通ってから加えると良いでしょう。

また、豆板醤は少しの量で辛みが増しますが、コチュジャンはたっぷりめに使うことでコクと深みが加わります。マヨネーズや少量の豆乳、クリームチーズと混ぜ合わせてディップ風にするのもおすすめ。「甘辛でまろやか」な味はキュウリやトマトにもよく合います。

コチュジャン、家で作れる?

豆板醤同様、シンプルな食材で自家製コチュジャンにチャレンジできます。市販のものには水あめなどを加え甘みを強めているものもあり、人によっては「甘すぎる」と感じることも。自分好みに味を変化させられるのが、自家製調味料の魅力のひとつですよね。

■材料
米麹(生麹/乾燥麹でも):50g
韓国産唐辛子:10g ※日本の一味唐辛子で作ると辛くなりすぎることがあるので、韓国産唐辛子を使用するのがおすすめです。
粗塩:5g

60℃の湯:80ml

■作り方
1.米麹をほぐし、60℃のお湯を入れて混ぜ、炊飯器やヨーグルトメーカーなどを使って60℃を保ちながら6時間ほど保温し、甘酒を作る。

  ※何回か混ぜると発酵が進みやすいです。水分が少なくなったら、途中でお湯(60℃)を足してください。

2.甘酒が完成したら鍋に移し、唐辛子と塩を加え60℃を越さないよう火加減に気を付けながら混ぜ合わせる。

3.照りが出て、とろりと仕上がったら清潔な瓶に入れる。

混ぜて待つだけ、とても簡単ですよね。

豆板醤とコチュジャン、代用のポイント

ここまでみてきた通り、同じ発酵調味料とはいえ豆板醤とコチュジャンは原材料や製法、味わいにも違いがあるため、代用しても全く同じ味付けにすることはできません。ただ、他の調味料を加えることでその味に近づけることは可能です。

豆板醤を、コチュジャンで代用するとき

■材料

コチュジャン:小さじ1

しょうゆ:小さじ1

ごま油:小さじ1/2

おろしにんにく:小さじ1/3

一味唐辛子:小さじ1

コチュジャンを、豆板醤で代用するとき

■材料

豆板醤:小さじ2

甜麺醤:小さじ3

豆板醤に甘みをプラスすることで、コチュジャンの味にかなり近づけることができます。以下に紹介する甜麺醤を加えてみてください。

番外編:甜麺醤とは

発祥や歴史、材料と味わい

甜麺醤は、小麦粉文化圏の中国北部地方で生まれた調味料で、小麦粉に麹を加えて発酵させた、いわば甘い味噌です。北京料理の特徴のひとつと言われる「みそ」はこの甜麺醤のこと。世界的にも有名な「北京ダッグ」や「回鍋肉(ホイコーロー)」などに使われています。

見た目はつややかな黒味がかった濃い茶色ですが、なめるとコクのある甘みが口の中に広がります。作る過程で加熱しているためそのまま食べることができる甘味噌として広く親しまれています。

日本メーカーが手がける甜麺醤の多くは、国内産の味噌を使って作られます。それぞれ味わいにも違いがあるので、購入の際には原材料もチェックしてみてください。

甜麺醤おすすめ活用法

小麦粉が原料なので、なめらかなとろみを持ち、食材とからみやすいので和えたり塗ったりに便利。甘みを活かした炒め物や煮物など、隠し味としても大活躍する一品です。

おすすめはタレやソースにすること。どんな食材にあわせてもおいしくいただけます。また、鶏のそぼろに甜麺醤をあわせ、ご飯に乗せるとコクとうま味がプラスされ、本格的な味わいに。ぜひ試してみてください。

甜麺醤、家で作れる?

甜麺醤の作り方はとっても簡単。材料をあわせて煮詰めることで完成します。ここでは赤味噌のひとつ、八丁味噌を使った簡単なレシピをご紹介します。

■材料

八丁味噌(赤味噌):200g

みりん:150ml

酒:50ml

醤油:大さじ1

ごま油:小さじ2

■作り方

1.すべての材料を鍋に入れ強火にかける。

2.八丁味噌がとろりとなるまで混ぜる。

  ※かたまりがなくなるとはねやすいので、火力を弱めて温める

  ※水分を飛ばす際、焦げ付かないように混ぜ続けるのがポイント

とても手軽なので、ぜひチャレンジしてみてください。

まとめ

豆板醤、コチュジャン、そして甜麺醤。その歴史や原材料の違いがひと目でわかるよう、表にまとめました。

豆板醤コチュジャン甜麺醤
発祥中国韓国中国
特徴的な原材料そら豆もち米、麹小麦粉
味わい刺激的な辛さと塩み甘さとマイルドな辛さコクのある甘さ
おすすめの調理法炒め物和え物タレ、ソース

それぞれの特徴を理解することで使いやすくなり、献立を考える際の手助けにもなりそう。日本と同じアジア発祥の発酵調味料の魅力を活かし、日々の料理作りを楽しんでくださいね。

【参考図書】

ウー・ウェン「中国調味料&スパイスのおいしい使い方」(高橋書店・2011)p.6, p.26

陳建一「陳家の秘伝」(日経プレミアシリーズ・2011)pp.115-116

荻野恭子「手づくり調味料のある暮らし」(暮しの手帖社・2020)p.7, p.41

な すんじゃ「こんなに使える手作りコチュジャン」(一般社団法人家の光協会・2014)pp.2-12

青木敦子「調味料オドロキの使いこなし術」(PHP研究所・2009)p.83

文・梅津有希子/料理・高谷亜由「使い切りたい調味料ベスト10!」(幻冬舎・2013)pp.63-64, p.68, pp.87-88