年々味噌の消費量が減少していると言われている昨今。
100年以上続く味噌造りの伝統を守りつつ、そんな現状を打破したいと新たな挑戦を続けるのは加藤兵太郎商店7代目の加藤篤さん。神奈川ブレンドという新商品の開発やラーメン店の開業など、加藤さんの挑戦は味噌業界に新風を吹き込んでいます。
かつては家業を継ぐことを考えていなかった加藤さんが、なぜ経営の道を選んだのか。
そして、家業を引き継いでから直面した数々の課題と、その中で見出した新しい可能性とは何か。
小田原の地で長年愛されている「いいちみそ」の魅力と、伝統と革新を両立させる加藤さんにお話を伺いました。
家業を継ぎ、伝統と革新を両立する味噌作りへの情熱
創業170年、小田原で知らない人はいない「いいちみそ」とは。
いいちみそは、神奈川県小田原市で創業から170年以上の歴史を持つ加藤兵太郎商店が製造する伝統的な味噌です。
古くから受け継がれてきた木桶での製法で作られた味噌は、麹が多めで甘みの強い味噌が増える中、大豆の分量が一般の味噌よりも多く、旨味の強い、味噌本来の深い味わいとコクが楽しめます。
こうした差別化の意味を込めて作られた味噌には加藤さんのこだわりがたくさん詰まっています。
「継がないつもりだった」加藤さんが家業に戻った運命の決断
-家業を継ごうと思ったきっかけをお伺いできますか?
周りにはずっと「絶対継がない」と言っていたのですが、親戚のおばさんたちが相次いで亡くなって「継いで欲しいってよく言っていたな…」と思い返していた時に、父親がふと「もう少しうちの会社続けたかったな…うちも捨てたもんじゃないんだけどな」みたいなことを言ったんです。
当時お付き合いしていた今の奥さんも「絶対継いだ方がいい」という意見だったので、継がない理由がなくなって、総合的にいろんなことが重なって今に至りました。
エンジニアから経営者へ:加藤さんが感じたリーダーとしての葛藤
-家業を継ぐ前は、システムエンジニアをされていたんですよね。転職に不安はありませんでしたか?
家業から逃げて畑違いのことやってみたかっただけなので、システムエンジニアの仕事は得意ではなかったんです。むしろ、家業の体力仕事の方が得意なんじゃないかと思っていました。
ただ、前職でリーダー経験や人を指導する経験がなかったので、経営者として人を動かすことが不安でした。何か変革をしようとしても、「こうした方がいいと思うんですけど、どう思いますか?」と相談する形で始めるので、話がなかなか進まず、変化も起こりにくい。
「人を雇う」という責任感や人の上に立つ者の資質がないっていう自覚がつらかったし、いまだにそこが一番不安ですね。
伝統を守り、変革を迎えるための挑戦
-長い歴史を守るために、大切にしていることはなんでしょうか。
「うちの特徴を消さないように」と考えています。近代化が進む中で、100年以上もやってきたことを変えるのは勿体ない。そこは絶対的価値になっていたので、うちの良さを消してしまうような近代的な機械を入れたりすることは避けて、味噌製造を柱にしようと思いました。
大幅に変わったパッケージへの周囲からの反響
-篤さんに代わってからホームページができたり、パッケージが変わったり、さまざまな変化があったかと思いますが、周囲の反応はどうでしたか?
パッケージが変わってからは明らかに見る目が変わりましたが、今までのお客さんがどれぐらい買わなくなるかというところが懸念としてありました。
実際にスーパーで同じように並んでいても「いいちみそがなくなった」「どこで買えばいいの?」という声や、「なんでそんなことするの?」という問い合わせもありました。でも、新規のお客様も増え、反響も良く、思い切って変えて良かったと思います。
新たな味噌の可能性を求めて:神奈川ブレンド販売とラーメン店開業への挑戦
小田原だけに囚われたくない!味噌をコーヒーのように楽しんでほしいという想いから生まれた神奈川ブレンド
-変革を起こしていくきっかけの一つとして、篤さんのデビュー作、「神奈川ブレンド」があると思いますが、誕生のきっかけや、完成するまで苦労したこと、神奈川ブレンドにこめた想いなどあれば教えてください。
地域性のある商品を作りたかったのですが、「小田原」だと限定し過ぎていると思ったので、「神奈川」まで範囲を広げて、神奈川の代表的な味噌にしたいと思い、このネーミングにしました。ただ神奈川に限定しているので、原料を調達するのが大変でしたね。
神奈川ブレンドに込めた想いとしては、味噌は消費品であって、嗜好品じゃない。僕自身、コーヒーが好きですごく高くても買うことが当たり前になっているけど、味噌でそういう商品はほとんど存在しない。需要が全然ないんです。そこで、味噌をもっとオシャレに身近に感じてもらいたいと思い、コーヒーのようなパッケージにしました。
その結果、多くのお客様に手に取ってもらえるようになりました。
ラーメン屋のオープン、コラボ商品の開発…認知に向けてのブランディングを強化中!
-今後「加藤兵太郎商店」として取り組みたいことはなんでしょうか。
味噌の1人当たりの消費量は年々減少していて、何十年とずっと下がり続けているものは歯止めが利かない。いち味噌屋は同じエリアで戦っていたら、どんどん減っていってしまう状態なので、今はどれだけ外に出られるかが勝負だと思っています。
昨年、なんかいファームという農業法人を子会社に迎え、そこではいいちみその原料であるお米と大豆を作っているのですが、小麦も作れるという話があったので、麺をつくって、味噌と麺でラーメンができるのでは?という流れで話が進み、現在ラーメン屋のオープンに向けて動いてるところです(麺屋 加藤兵太郎商店:9月21日にオープン)。
こうして味噌をいろんな手段で世の中に提供していきたいと思っているので、ラーメン以外に餃子の味噌ダレや、味噌の加工品を作っていこうと思っています。
あとは、コラボしたいと思われるお店を目指して、ブランディングを強化しています。
いいちみそ初心者さんへ!オススメは「白みそ」
-この記事をきっかけに、「いいちみそを食べてみたい!」という方に向けて、オススメの味噌や食べ方を教えてください。
一番人気は白みそですね。淡くしているからクセがなく、食べやすい味噌なんですけど、大豆の比率が高いので、うま味が強いのが特徴です。味噌自体が淡白なので、豆腐とかワカメとか具材自体がそんなに主張しないものとの相性がすごくいいですよ。
加藤さんの語る「いいちみそ」には、170年以上にわたる伝統と、その未来を切り開く革新の思いが詰まっていました。
家業を守るだけでなく、挑戦を続ける姿勢は、味噌の可能性を広げ、次世代へと受け継ぐための大切な一歩です。加藤さんが手掛ける新たな試みが、これからどんな風に私たちの食卓を彩っていくのか、その進化にますます期待が高まります。
今後の展開も楽しみにしています!
公式ホームページ:https://iichimiso.com/
instagram:https://www.instagram.com/iichimiso/
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